皐月賞2着馬で4番人気の
タスティエーラが4番手追走から直線で抜け出して、第90代の
日本ダービー馬に輝いた。新たにタッグを組んだダミアン・レーン騎手(29)=オーストラリア=が勝利へと導き、初コンビでの
日本ダービー制覇は69年ぶり。4着までが同タイムで入線するというダービー史上初の大激戦だった。
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オーストラリアからやってきた名手の手綱が、重い歴史の扉をこじ開けた。ラスト100メートルで繰り広げられた4頭による息をのむ追い比べ。ゴールの瞬間、わずかに抜け出したのはレーン騎手と初めてコンビを組んだ
タスティエーラだった。〝テン乗り〟でのダービー制覇は1954年に岩下密政騎手がゴールデンウエーブで達成して以来、実に69年ぶりの快挙だ。
「ベリースペシャル! 前走のように先頭に立っても集中力を欠くことなく、100%の力を出し切ってくれました。チャンスを生かすことができてうれしいです」
ジョッキーは頰を上気させながら勝利の味をかみしめた。
パクスオトマニカの大逃げに場内がどよめく中、4番手でじっくりと折り合いをつけてレースを運んだ。残り400メートルから満を持して仕掛け、残り1ハロンで先頭へ。ゴール前ではライバルたちの猛烈な追撃を受けたが、鞍上が右腕で懸命に首を押すとグイッともうひと伸び。
皐月賞で敗れた
ソールオリエンスをクビ差振り切り、第90代ダービー馬に輝いた。
この日は〝勝利の女神〟も後押しした。今年1月に結婚したばかりのボニー夫人が先週末に来日。白い
ドレス姿で応援に駆けつけた愛妻と、レース後に熱烈なキスを交わした。「一緒に特別な経験ができてよかった。いてくれてよかったです」。最終レースの
目黒記念まで怒涛(どとう)の騎乗機会4連勝を決めて、ダービーデーを〝レーンデー〟に変えた。
「初めて厩舎に来たときにいい馬と思いましたが、ダービーを勝つとは全く思いませんでした。経験を積んでステップアップしてくれました」
2015年
ドゥラメンテ以来のダービー2勝目を飾った堀調教師は、想像を超える愛馬の成長に目を細める。自身が手がけ、15年ダービーで3着だった
サトノクラウンの産駒での勝利に、「父とはまた個性が違いますが、厩舎としては喜びがあります」と語った。
レース後に左前肢の落鉄が判明したため、今週いっぱいは厩舎で経過を観察する予定。順調なら秋は
菊花賞か天皇賞が目標になる。
「能力がありますし、(調教で)乗るたびに良くなっていると感じていました。いいポジションでリラックスできますし、2400メートルを超える距離も無理ではないかもしれません」
レーン騎手は豊かな将来性を強調した。古馬になってから国内外でGⅠ・2勝を挙げた父の背中を追い、
タスティエーラはさらなる勝利の旋律を奏でていく。(漆山貴禎)
■
タスティエーラ 父
サトノクラウン、母パルティトゥーラ、母の父
マンハッタンカフェ。鹿毛の牡3歳。美浦・
堀宣行厩舎所属。北海道安平町・ノーザンファームの生産馬。馬主は(有)キャロットファーム。戦績5戦3勝。獲得賞金4億8232万9000円。重賞は2023年GⅡ
弥生賞ディープインパクト記念に次いで2勝目。
日本ダービーは
堀宣行調教師が15年
ドゥラメンテに次いで2勝目。ダミアン・レーン騎手は初勝利。馬名は「(楽器の)キーボード(伊)。母名より連想」。
★…レーン騎手と喜びを分かち合った夫人のボニーさんは「とてもエキサイティングでした! すごくうれしいです。ダミアンは『応援が力になった』と言ってくれました。日本で一緒にいい思い出を作ることができました」と幸せをかみしめていた。
★…
日本ダービーの売り上げは283億8674万5400円で前年比97.4%。入場者数は7万1868人(うち有料入場者数6万9602人)だった。
<第90回
日本ダービー・アラカルト>
☆ダミアン・レーン騎手…4回目の騎乗で初勝利。これまでの最高は2020年(
サリオス)の2着。GⅠは昨年の
マイルチャンピオンシップ(
セリフォス)以来で通算5勝目。重賞は昨年の
ステイヤーズS(
シルヴァーソニック)以来で通算13勝目。
☆短期免許騎手によるダービー制覇…03年のミルコ・デムーロ騎手(
ネオユニヴァース)以来で2人目。
☆初コンビでのダービー制覇…1954年のゴールデンウエーブ(岩下密政騎手)以来、69年ぶり通算4回目。
☆
堀宣行調教師…2015年(
ドゥラメンテ)以来で通算2勝目。GⅠは昨年の
フェブラリーS(
カフェファラオ)以来で通算15勝目。重賞は
弥生賞ディープインパクト記念(
タスティエーラ)以来の今年3勝目で通算68勝目。
☆
サトノクラウン産駒…産駒初出走で勝利。GⅠは延べ4頭の出走で初勝利。
☆新種牡馬産駒の
日本ダービー制覇…グレード制を導入した1984年以降、2009年
ロジユニヴァース(父
ネオユニヴァース)以来で通算8頭目。
☆(有)キャロットファーム…17年(
レイデオロ)以来で通算2勝目。GⅠは昨年の
ジャパンC(
ヴェラアズール)以来で通算32勝目。
☆ノーザンファーム…昨年(
ドウデュース)に続く通算12勝目。GⅠは
オークス(
リバティアイランド)に続く今年5勝目で通算190勝目(他にJ・GⅠを3勝)。
☆関東馬の勝利…17年(
レイデオロ)以来で通算成績は関東馬46勝、関西馬44勝。
☆関東馬の1~3着独占…1990年(1着
アイネスフウジン、2着
メジロライアン、3着
ホワイトストーン)以来の23例目(1962年は2着同着)。
☆
皐月賞2着馬…2016年(
マカヒキ)以来で通算12勝目。