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【日本ダービー 北の国から生産馬にエール④】コスモキュランダのビッグレッドファーム・岡田紘和代表「父も本命にしたと思います」

競馬の世界で誰もが夢焦がれ、生涯目指し続ける日本ダービー。2021年に誕生した7906頭(国内7737頭、輸入外国産馬169頭)のサラブレッドから出走のチャンスを奪取した18頭の生産者も5月26日の本番に胸を高鳴らせている。

〝あの子馬が晴れ舞台に立つ〟〝とにかく無事に〟。それぞれのドラマを乗り越えてきたわが子に北の国からエールが届いた。

コスモキュランダを送り出す北海道新ひだか町のビッグレッドファームの岡田紘和代表(47)にとって、今年の競馬の祭典は亡き父とのタッグで臨む一戦だ。(取材構成・鈴木学)



「こんな馬を買えるチャンスはなかなかないぞ」

隣で、パドックを周回する馬を見ていた父が岡田紘和さんに話しかけてきた。

2020年10月27日。北海道苫小牧市のノーザンホースパークで開かれたノーザンファーム繁殖牝馬セールでのこと。父の視線の先にいたのは、アルアインの子を宿したサザンスピードという母馬だった。産んできた子供に活躍馬はいないが、自身はオーストラリアでトップクラスのGⅠ・コーフィールドCを制覇。ビッグレッドファームグループを率いる父、岡田繁幸さんもその競走成績にひかれたようだった。

「いくらまで(競る)?」。息子が聞くと父は「行けるところまで」。いつもと同じ会話が交わされた。「僕の中では3000万円前後までなら行きたいと思っていました」と紘和さん。競りに臨むと2100万円(税抜き)で、すんなり落札できた。

それが父の隣で馬を見ながら競りに臨んだ最後の日になろうとは思ってもいなかった。翌年の3月19日、71歳の誕生日に父は亡くなった。サザンスピードは2月23日に元気な牡馬を産んでいた。「父が生まれた子を見たかどうかは定かではなく、父の評価は聞いていません。私は『大きないい子だな』って。欠点が見当たらない馬体だったので、母を買ってよかったなと思いました」

大きなけがも病気もなく幼少期を過ごした子はコスモキュランダと名付けられた。牧場で乗り始めると、体を持て余し気味ながらも楽に進んでいく姿に「能力は高そう」と思った。当然、昨年6月の新馬戦から期待していたが5番人気で12着と大敗。「こんなに走らないのは絶対にありえない。あとから聞くと、美浦トレセンに入ってからうるさくなりコントロールが利かなかったようです」。

放牧に出して仕切り直し。9月10日の2戦目で4着になると徐々に着順を上げ、4戦目で初勝利をマークした。「改修で利用できなかった美浦の坂路を使えるようになってから成績が安定してきましたね」。未勝利を脱出するとすぐにGⅢ・京都2歳Sへ。「4戦もかかって勝てた馬をすぐ重賞に使ったのは、能力が高いと信じていたから。8着ですが不利があったので度外視していい」。だからこそ、1勝馬の身で弥生賞ディープインパクト記念に出走させ、見事勝利を収めた。

「弥生賞は思っていたよりも強い勝ち方。『本物だな』と確信に変わりました」

続く皐月賞はクビ差の2着。「負けましたが、半馬身以内ならダービーでもチャンスがある。想定内の結果です」と前を向いた。

日本ダービーでは鞍上が再びミルコ・デムーロ騎手に戻る。「皐月賞は先約があってこちらに乗れませんでした。困ったなと思っていたら、モレイラ騎手が『乗れる』と」。ダービーでの騎乗も頼むと、身元引受厩舎との関係で「すぐに返事ができない」と言うので再びデムーロ騎手に依頼した。「『もちろん乗ります!』と。弥生賞では注文がつく馬をうまいこと乗ってくれたし、この馬と手が合っていると思います」

思えば、父の繁幸さんが亡くなって2カ月後のオークスで、ビッグレッドファームの生産馬ユーバーレーベンを樫の女王に導いたのもミルコ・デムーロ騎手だった。「ダービーも複数勝っているし(2003年ネオユニヴァース、15年ドゥラメンテ)、この馬とは好結果が出ているので安心して任せられるジョッキー。本番でも力を十分引き出してくれるかな」。

父はダービー制覇に執念を燃やし続けた。だが、夢を果たすことはできなかった。牧場をくまなく歩き回って見つけ、購入して自身で走らせたグランパズドリームの2着(86年)が最高着順だった。グランパ(祖父)とは、紘和さんから見た祖父の蔚男(しげお)さん。グランパズドリームを購入したとき、1歳だった紘和さんを祖父が溺愛していたことから、孫の目線で祖父の夢でもあったダービー制覇の思いを込めて繁幸さんが命名した。

「(父の)グランパズドリームへの思い入れは聞いていました。『祖父が珍しく褒めてくれた』って」

父が地方所属のままクラシックに挑戦させたコスモバルクは弥生賞を勝って皐月賞2着でダービーへ。その足跡はコスモキュランダとぴったり重なる。ダービーは8着に敗れたが、「あの時は地方所属馬がクラシックに出るためのハードルが高すぎた。外せないレースをしっかり勝って出走しましたが、今回は普通に美浦の調教師に預かってもらい、ジョッキーも中央所属ですからね」。その分、コスモバルクよりはハードルが低く、関係者のプレッシャーも少なくて済む。

ダービー制覇に懸ける父の情熱は当然、息子にも引き継がれている。

「個人的にも一番取りたいレース。岡田家は長い生産の歴史で誰も日本ダービーを勝っていません。祖父と父の目標でもあったので、なんとかしたい」

コスモキュランダが誕生後、サザンスピードはダノンバラード(2歳牡、1歳牝)、ゴールドシップ(当歳牝)の子を産んだ。どちらの種牡馬も父が熱心にビッグレッドファームへの導入に動いた馬だった。弟妹にも父の執念が宿っている。

繁幸さんは20年までサンケイスポーツ紙に馬体診断をメインの予想を寄稿していた。紘和さんにも馬体診断を頼んでみた。

「雄大な馬体は張りがあって筋肉量が多い。足先と手先は非常に強くてその分、パワーがあります。体が柔らかくストライドが大きいので一完歩、一完歩がパワフル。瞬発力は優れているわけではないですが、徐々にスピードに乗っていけるので、直線の長い東京コースは合っています」

父が存命なら今年のダービーで本命にしただろうか。

「本人の理想の中ではもっと瞬発力のある馬がいいと思うでしょうが、希望的観測として父は本命にしたと思います」

紘和さんは、亡き祖父と父の思いも背負って日本ダービーに臨む。

■ビッグレッドファーム

1974年、岡田繁幸氏が北海道静内町浦和(現新ひだか町静内浦和)に創業。88年に育成施設の真歌トレーニングパーク開場すると明和、鉾田、朝日、泊津に施設を拡充。牧場の総敷地面積は約600ヘクタール86年に育成・所有馬のグランパズドリームが日本ダービーで2着。2009年にマイネルキッツ天皇賞・春で、生産馬として初めてGⅠを制した。現在、約150頭の繁殖牝馬、7頭の種牡馬を繋養している。

2024年5月24日(金) 10:00
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2022 - 2023

たけぼう54さん

昨年の主な活躍馬:
タスティエーラ

獲得賞金:116,643万円

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3歳
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